いつかの遺失物係

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森田るい『我らコンタクティ』

もっぱらの評判に影響されて先日購入した森田るい『我らコンタクティ』、評判通りすごく面白かった。

 

森田るい『我らコンタクティ』

 

すごくざっくり言えば、二十代半ばの男女が恋愛も抜きでロケット開発に勤しむ漫画なのだが、あらすじはこのマンガの紹介としてはあまり機能しないかもしれない。

 

本を開いて最初の見開きを見たときに、これは素晴らしい漫画では…と直感した。絵がものすごく魅力的。線がすごくやわらかくのびのびしていて、いろんな構図で描かれた絵なのに破綻が全然ない。コマ割りも丁寧で大胆でかなり気持ちいい。とにかく絵の読み心地がすばらしい。話の爽やかさと風通しの良さとすごく合ってる。

絵柄は若干西村ツチカ似だったり、構図やコマ割りは高野文子の影響が少なからずありそうに見えたりもするけど、色々な漫画や映画の歴史を汲み取ってきた人なんだと思う。

 

この森田るいさん、これが初連載らしいので、初めて読んだ漫画家だと思っていたら、以前4号と6号をコミティアで買った『ゆうとぴあグラス』という同人誌に描いている人だった。

どの作品だ?と思って見返してみると、4号の作品は特に記憶に残っているものだった。認知症気味?の母と暮らす男の話。この話は思いもよらないラストになるのだけど、それはさておく。別居している父の家に思い出の品を取りに忍びこむシーンがあって、そこのコマ割りがすごく凝っていたことに、読み返して初めて気がついた。見開きにいくつも配置されたコマを、外から内へ、螺旋状に読んでいくというコマ割りだ。コマが内に進むにつれ、家の中の探索が進んでいくという仕掛けになっている。読み返してみたところ、ここのシーンが良かった。全体の絵も好き。6号の漫画も短いながら絵が良くて記憶に残っていた。

 

しかしこの2つの作品と比べても『我らコンタクティ』の絵はとびぬけて良い。画面内の物やキャラクターの動きがはっきりと伝わってきて、それが要所要所で話を動かしている。動きの気持ち良さが描けているだけですごく感動する。漫画らしい快感。それから、主人公の表情が超良い。いつまでも見続けられるキャラデザインだと思う。

 

話に関しては詰め込みまくりでちょっと展開が早すぎるんだけど、これを何冊かに分けるよりは、やっぱり一冊に収めた方が漫画として気持ちいいんじゃないかと思う。まあまあ厚い一冊完結の漫画というのはめっちゃいい。

 

この漫画では「火」が話の中で重要なモチーフとして出てくる。火が持っている不思議な魔力というのは漫画の中でも作用するらしい。無意味にマッチに火をつけたり、焚き火をいつまでも眺めていられるあの気持ちのことだ。

主人公の相方的存在となる「かずき」は、無口な青年だが自作のロケットエンジンの燃焼実験でその内に秘めた情熱の高ぶりを放出する。また、あるサブキャラクターの一人は、フラストレーションの発散としてお金に火をつけるという行為を自傷行為のように繰り返す。火は人の感情を増幅し可視化したものとして物語のなかで機能している。だからこそ、その火をちゃんとコントロールする、ということが物語の中では大きな意味を持って見えてくる。火がいくつかのシーンでそれぞれ違うものとして描かれるというのがすごくうまかった。

 

ということでいい漫画です。森田るいさん、次の作品が出ることになったら必ず買おうと思います。

そしてこの漫画は映画への愛をはっきり表明しているわけなんだけど、作中に出てきた映画がわかる方、教えてくださると助かります…。

 

追記:あの映画は架空の映画なのでは、という意見をもらって、そうなのかもと戸惑っています。では。