私的音楽二十選 2015 【後半】
前半はこちら。
もう2015年も8割方終わってますよね。。下書きに入れつつ最後の数枚が決まらずに放っておいた記事を成仏させるべく書ききりました。せいぜい数十アクセスが見込めるかどうかの弱小記事ですがよろしければどうぞ。
前半では意図せず細野晴臣がやたらと出てくる文章になってしまっていましたが、後半はまたちょっと雰囲気が違うはずです。
11. cero - ワールドレコード (2010)
これはなんだか新しい、とそう思いました。ceroのファーストアルバム。
ceroを好きになることは僕にとって新たな音楽の見方を手に入れることのきっかけでもありました。それは、ceroを通じてエキゾチカ、ヒップホップ、日本語ロック、ポップスなどをあらためて捉え直すことになったからです。ceroの素晴らしいところは、これはアジカンのゴッチも書いていました(これも)が、これまでの長い時代の中で築かれてきた豊潤な音楽の世界というものを意識した姿勢と、そこから引っ張ってくるセンスだと思います。このアルバムの中でも初期日本語ロック(僕の大好きなイラストレーター・漫画家の本秀康さんによるジャケットは、ムーンライダースの『火の玉ボーイ』へのオマージュです。さらに鈴木慶一プロデュースの曲も1曲あります。)からヒップホップからワールドミュージックからジャズから、色々なソースからユーモラスに引用してコラージュして独自の音楽を作り上げています。それは僕にとって、初めて来たのにどこか知っている気もする場所のような感触でした。
僕にとってこのアルバムやceroは、日本のロックの新たな時代の象徴として、これから音楽を聴くためのガイドとして、僕と同じ西東京(とは言ってもceroのメンバーは比較的新宿に近い側で育ってるはず)で育ってきた年上の兄ちゃんたちとして、好きであり続けるバンドであることは間違いないでしょう。
このアルバムならおすすめは「21世紀の日照りの都に雨が降る」「あののか」「exotic peenguin night」「大停電の夜に」「(I found it)Back Beard」「小旅行」などなど。彼らのラジオも色々な曲を知るきっかけになってくれておすすめですし、行く度に曲のアレンジが変わっているライブもおすすめです。先日もライブに行ってきたのですが、このアルバム収録の「outdoor」がまたカッコ良くなってまして最高でした。
12.Sufjan Stevens - Illinois (2005)
文句なしに美しい音楽。イリノイ州を題材にしたコンセプトアルバムではありますが、それを知らずとも浸ってしまう名曲の数々。そうしてそのあとで歌詞を読むとまた浮かび上がってくる新たなイメージ。そうか、なるほど、とそこでようやくコンセプトが見えてきます。このアルバムはあらゆる楽器の音色で編まれた壮大な物語なのです。
カラフルなサウンドはヴァン・ダイク・パークスなんかを思い起こさせ、時々出てくる反復するパートの音色はミニマル・ミュージックのスティーブ・ライヒの影響も感じます。そんなスフィアン・スティーブンスが作り上げたこの箱庭的音楽群にどっぷり嵌ってしまう人はきっと多いんじゃないかと思います。マジ最高!
この曲は映画『リトル・ミス・サンシャイン』でも使われていましたね。
13. Beck - Modern Guilt (2008)
Beckの色んな顔の中でも一番クールな面が出ているのがおそらくこのアルバムです。デンジャーマウスをプロデューサーに置いてビート中心の作りにしていますが、和音や声や楽器の響きの浮遊感と気だるさは超サイケデリック。3分程度の曲が10曲のみという構成は60年代ごろのアルバムを意識しているとかよく書かれていますが、楽器や声の扱い方などもビートルズの『Revolver』などに通じるサイケ感を感じます。
「気だるさ」ってBeckの音楽のポイントの一つですが、僕は「気だるさ」を感じる音楽が好きなのかもしれないなとたった今思いました。くるりも細野晴臣もスライも気だるさで好きになっているのかもな、と。
14. Donny Hathaway - Live (1972)
音楽を演奏することや、それを聴くことの素晴らしさが詰まっているアルバムです。見なくても聴けばわかる演奏者と観客の楽しげな距離感や、演奏者同士が楽しみながら曲をプレイしている様子、そういったものが本当によく伝わってきて、自分も観客のひとりになったような気持ちでこの演奏を楽しむことができるという点で、これ以上のライブ盤を僕はまだ聴いたことがありません。卓越した演奏家たちによる素晴らしい演奏とアイデアとが「ライブ」という場で作り上げた、魔法のような音楽です。
15. Lamp - ゆめ (2014)
このアルバムは、雨の日か晴れの日か曇りの日か夏の日か冬の日か春の日か秋の日に聴くとすばらしいです。つまり、とってもいいアルバムです。なかでもアルバム最後の曲「さち子」の美しさ、はかなさは言葉にできません。楽曲の洗練度の高さは日本のバンドでも最高レベルではないでしょうか。
また、メンバーの染谷大陽さんのブログでブラジル音楽などのさまざまな音楽に出会えたというのもあり、Lampはリスペクトしまくっています。このブログには本当にお世話になっております…。林静一のジャケットもほんといいですよね。
16. (((さらうんど))) - See You, Blue (2015)
この辺りの音楽がどういうジャンルに分類されるのかは詳しくないので分からないのですが、普段そんなに聴かないタイプの音なのに、ダンスミュージックとしてのクオリティがとてつもなく高いので、初めて聴いた瞬間から僕の中でのクラシックの座に収まりました。この前のアルバムも良かったのですが、トラックが格段にレベルアップしたように感じます。ラッパーのイルリメとしても活動している鴨田潤(Vo.)の歌詞の世界観も相まって、とにかく心がときめくダンスミュージックです。それにしても鴨田潤はすごくいい歌詞を書く人ですね。冨田ラボの『エイプリルフール feat.坂本真綾』の歌詞もこの人の手によるものなんですが、歌詞とメロディーの調和と、その内容は感動ものです。(『エイプリルフール』といえばこのドキュメントの動画も面白かったので良かったら。)
(((さらうんど)))というグループ自体が面白い存在ですしこれからのアルバムも期待できます。僕の心の師匠である(大マジです)大原大次郎さんによるデザインもいいんですよねえ。後生大事にしていきたい1枚です。
17. SIMI LAB - Page 2: Mind Over Matter (2014)
SIMI LABのメンバーはほとんどがハーフで、それでも日本語だけしか話せないメンバーが大半です。そんなメンバーたちがそれぞれの境遇を持ち寄ってひとつの音楽を作ろうという時に、自分の生活がそのまま音楽と結びつくという点で、ヒップホップという音楽は最適じゃないかと思うのです。音楽を通じて逆境が武器に変わるその様がたまらなくかっこいいと感じられるのは、それが僕らの希望になりうるからじゃないでしょうか。特にこのアルバムでは自分たちのルーツに言及しつつ進んで行こうとするような曲が多くて非常にアガること間違いなしです。今年出た、リーダー的存在のOMSBのソロアルバム『Think Good』も傑作でした。OMSBが部屋にこもってMPCを叩きながら1曲を作るというドキュメンタリー映画『THE COCKPIT』(2015)も良かったですよ。これ観てから僕もMPC叩き始めました。
18. Donnie Trumpet & The Social Experience - Surf (2015)
最近のアルバムが続いていますね。このフリーダウンロードのアルバムは今年の6月ごろに出たばかりですが、ダウンロードしてから頻繁に聴いています。
シカゴのヒップホップクルー、Save Money Crewのメンバーらによって結成されたThe Social Experienceのアルバムなのですが、多数のゲストを招いてバラエティー豊かでハイクオリティなアルバムになってます。また僕としては、中心メンバーの一人であるラッパーのChance The Rapperが93年生まれの22歳だったりと、自分と歳の近いアーティストがやっている音楽ということで興味をもっている部分もあります。でもとにかく好きな理由の一番は、この曲が聴けることです。最初のピアノ、Chance The Rapperがラップをし始めるところ、Jamila Woodsが歌い出すところ、最後のゴスペル的展開まで最高の瞬間の連続です。なんといってもMVが最高。そしてこの曲、Chanceが自分の大切な祖母のことを歌っている曲なんですが、そこも最高。
曲やMVの手のかかりようなど、本当にフリーで良いのか、というクオリティです。
このアルバムについて詳しくはこれを(えげつないくらい丁寧な記事です!!興味があるなら必読!)、Save Money Crewについてはこれを読めば良いでしょう。アルバムをダウンロードするならここから。
19. Tyler,The Creator - Cherry Bomb (2015)
Frank OceanやThe Internet、Earl Sweatshirt(タイラーの弟)などメンバーが次々有名になっている、今年解散したLAの超人気ヒップホップクルーOFWGKTA(Odd Future Wolf Gang Kill Them Allという長過ぎる正式名称です)のリーダー、タイラー・ザ・クリエイターによるソロ4枚目のアルバム(ちなみに1枚目はここからダウンロード可)。
タイラーのアルバムは2枚目の『GOBLIN』(2011)だけ聴いてないのですが、それを抜いてもこれまでのアルバムと較べて一番メロウで甘酸っぱい音になっていて、非常に好みでした。リバーブのかかったキーボードやギターの音がすごく心地いい曲が多めで、一方で破壊的な曲もあるのですが、それでも全体にこれまでよりも少し大人な内容というか、気持ちよく聴けるアルバムになっていると思います。歌詞も少し可愛い恋の曲(といっても逮捕を恐れて未成年の彼女のことが好きなのにヤれないという内容)があったりと、尖った部分以外が見えるのも良いですね。
参加アーティストにはKanye WestやLil WayneにPharrell Williamsなど豪華。The InternetのSyd The Kidも何曲かでコーラスで参加しています。
この曲はタイラーのへたくそな歌とメロウなトラック・コーラスがすごく良いですよ。MVもタイラーが可愛いのでおすすめ(MVの後半は「Deathcamp」という別の曲のMVになっていてそっちはマッドマックス風)。
20. D'Angelo - Voodoo (2000)
去年の終わりにかなり久しぶりに3rdアルバムを出したディアンジェロの2ndアルバム。
ディアンジェロを聴いたのは、星野源が何度もディアンジェロ好きを公言していて気になって聴いてみたのが最初なんですが、初めてこのジャケを見たときは「うわっ、コワっ、キツっ」てな感じで、なんとなく想像していた感じと全然違う、かなりマッチョなジャケットに結構引きました。この写真とブラックレターで書かれた「Voodoo」の文字がとにかく強い方向でマッチしてます(良くも悪くもダサいと思う)。
いざ聴いてみましょう。…ん…?なんかくぐもったような音…派手なメロディーや演奏でもないし…歌もざわざわごにょごにょしてて微妙…。初めて聴いた人、とくにソウルやファンクに馴染みがない人だとそんな感想を抱く人も少なくないと思います。僕も最初からハマったわけではありませんでした。
僕なりにこのアルバムの良さを理解しようとする人におすすめしたいのが、この曲を大きな音(重要!)で聴いて踊ったり、コーラスに自己流で参加してみることです。このアルバムに流れてる魔力に気づけるかもしれません。
いったいどんな魔法なのかを理解することも口で説明することも僕にはできるとは思えませんが、手数の少ないながらミチミチした音づくりの演奏の密室感と、分厚く重なったコーラスの禍々しさやゴスペルに通じるような神聖さは、ものすごくプリミティブな感覚に訴えかけてくるような、太古から現代まで見えない何かが通じてくるような、そんな揺さぶられ方です。この点で、前半で紹介したJames Blakeとディアンジェロの音楽は通じる何かがあると感じます。実際、James Blakeはディアンジェロの音楽が大好きだと公言しています。この演奏の感じは、ceroの3rdアルバム『Obscure Ride』や藤井洋平の音楽が好きな人は入っていきやすいんじゃないでしょうか。
アルバム全体を流れるドロっとした空気は保ちつつも、ファンキーな曲からヒップホップな曲、クラクラするほどメロウな曲もあり。繰り返しの中で気持ち良さが生まれてくるタイプの音楽だということもあって、聴くほど味出まくりの名盤だと思います。
そんなアルバムの中でも僕はロバータ・フラックのカバーをしたこの曲が好きですね。
ちなみにディアンジェロの3rdアルバムの話ではありましたが、こないだの「菊地成孔の粋な夜電波」ではディアンジェロを中心としたブラックミュージック特集が行なわれていて、ディアンジェロの音楽がいかにすごいかというのを音楽家の観点から分析していてかなり面白い回になっていたのでおすすめです。(ニコ動のリンクです)
前編 #232 2015.11.06 ‐ ニコニコ動画:GINZA
後編 #233 2015.11.13 ‐ ニコニコ動画:GINZA
こんな感じで2015年が終わろうとしている中、自分の現時点のベストアルバムを選出してみたわけですが、書いている数ヶ月の間にもどんどん入れ替わってしまい、さらに文体もその日ごとのテンションで変わってしまい、どうにもこうにもならないままようやく(誰にも望まれることなく)書き上げることができました。2016年もできたらまたやろうかなと思います。この記事が100PVくらい行ってくれるといいのですが…。ちなみに最近はVulfpeckというバンドにドハマりしそうな予感です。ではさようなら。
最後に僕が普段からお世話になっている音楽ブログをあげておきます。
トレンドの音楽から各種ネット上の音源までをあり得ないくらいの情報収集能力でレビューや紹介しまくっているブログ。知られざるフリーダウンロード音源に沢山出会えます。
非常に残念ながら先日更新を停止してしまったのですが、ブログ主の国分純平さんは本名で「ミュージック・マガジン」にフリーダウンロードの音源紹介の連載を開始されたそうです。ブログは残しておいてくれるそうなので掘り放題ですよ。
この記事内でも書いたAOR・シティポップスバンド、Lamp の染谷大陽さんが書いているブログ。染谷さんが選んだ聴いておくべきアルバム100枚や、ソウル、ブラジル音楽のおすすめなど、染谷さんが好きな音楽について細かく技術的な部分に触れて書いているので、ミュージシャンが書いている文章としての面白さがかなりあります。僕はここで知ったブラジル音楽をけっこう買ったりしています。
日本語ラップのサンプリングネタを探し続けるブログ。最近知ったブログですがかなり楽しいです。自分の好きな曲から元ネタの良い曲の方にたどり着けるのでそこが良いところ。大変な作業だと思うのですが頑張って続けてくれたら嬉しいですね。
こんなところです。