いつかの遺失物係

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私的音楽二十選 2015 【後半】

 前半はこちら。

necomachiradio.hatenablog.com

 

 

もう2015年も8割方終わってますよね。。下書きに入れつつ最後の数枚が決まらずに放っておいた記事を成仏させるべく書ききりました。せいぜい数十アクセスが見込めるかどうかの弱小記事ですがよろしければどうぞ。

前半では意図せず細野晴臣がやたらと出てくる文章になってしまっていましたが、後半はまたちょっと雰囲気が違うはずです。

 

 

11. cero - ワールドレコード (2010)

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これはなんだか新しい、とそう思いました。ceroのファーストアルバム。

ceroを好きになることは僕にとって新たな音楽の見方を手に入れることのきっかけでもありました。それは、ceroを通じてエキゾチカ、ヒップホップ、日本語ロック、ポップスなどをあらためて捉え直すことになったからです。ceroの素晴らしいところは、これはアジカンのゴッチも書いていました(これも)が、これまでの長い時代の中で築かれてきた豊潤な音楽の世界というものを意識した姿勢と、そこから引っ張ってくるセンスだと思います。このアルバムの中でも初期日本語ロック(僕の大好きなイラストレーター・漫画家の本秀康さんによるジャケットは、ムーンライダースの『火の玉ボーイ』へのオマージュです。さらに鈴木慶一プロデュースの曲も1曲あります。)からヒップホップからワールドミュージックからジャズから、色々なソースからユーモラスに引用してコラージュして独自の音楽を作り上げています。それは僕にとって、初めて来たのにどこか知っている気もする場所のような感触でした。

僕にとってこのアルバムやceroは、日本のロックの新たな時代の象徴として、これから音楽を聴くためのガイドとして、僕と同じ西東京(とは言ってもceroのメンバーは比較的新宿に近い側で育ってるはず)で育ってきた年上の兄ちゃんたちとして、好きであり続けるバンドであることは間違いないでしょう。

このアルバムならおすすめは「21世紀の日照りの都に雨が降る」「あののか」「exotic peenguin night」「大停電の夜に」「(I found it)Back Beard」「小旅行」などなど。彼らのラジオも色々な曲を知るきっかけになってくれておすすめですし、行く度に曲のアレンジが変わっているライブもおすすめです。先日もライブに行ってきたのですが、このアルバム収録の「outdoor」がまたカッコ良くなってまして最高でした。

 

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12.Sufjan Stevens - Illinois (2005)

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文句なしに美しい音楽。イリノイ州を題材にしたコンセプトアルバムではありますが、それを知らずとも浸ってしまう名曲の数々。そうしてそのあとで歌詞を読むとまた浮かび上がってくる新たなイメージ。そうか、なるほど、とそこでようやくコンセプトが見えてきます。このアルバムはあらゆる楽器の音色で編まれた壮大な物語なのです。

カラフルなサウンドはヴァン・ダイク・パークスなんかを思い起こさせ、時々出てくる反復するパートの音色はミニマル・ミュージックスティーブ・ライヒの影響も感じます。そんなスフィアン・スティーブンスが作り上げたこの箱庭的音楽群にどっぷり嵌ってしまう人はきっと多いんじゃないかと思います。マジ最高!

この曲は映画『リトル・ミス・サンシャイン』でも使われていましたね。

 

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13. Beck - Modern Guilt (2008)

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Beckの色んな顔の中でも一番クールな面が出ているのがおそらくこのアルバムです。デンジャーマウスをプロデューサーに置いてビート中心の作りにしていますが、和音や声や楽器の響きの浮遊感と気だるさは超サイケデリック。3分程度の曲が10曲のみという構成は60年代ごろのアルバムを意識しているとかよく書かれていますが、楽器や声の扱い方などもビートルズの『Revolver』などに通じるサイケ感を感じます。

「気だるさ」ってBeckの音楽のポイントの一つですが、僕は「気だるさ」を感じる音楽が好きなのかもしれないなとたった今思いました。くるり細野晴臣もスライも気だるさで好きになっているのかもな、と。

 

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14. Donny Hathaway - Live (1972)

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音楽を演奏することや、それを聴くことの素晴らしさが詰まっているアルバムです。見なくても聴けばわかる演奏者と観客の楽しげな距離感や、演奏者同士が楽しみながら曲をプレイしている様子、そういったものが本当によく伝わってきて、自分も観客のひとりになったような気持ちでこの演奏を楽しむことができるという点で、これ以上のライブ盤を僕はまだ聴いたことがありません。卓越した演奏家たちによる素晴らしい演奏とアイデアとが「ライブ」という場で作り上げた、魔法のような音楽です。

 

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15. Lamp - ゆめ (2014)

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このアルバムは、雨の日か晴れの日か曇りの日か夏の日か冬の日か春の日か秋の日に聴くとすばらしいです。つまり、とってもいいアルバムです。なかでもアルバム最後の曲「さち子」の美しさ、はかなさは言葉にできません。楽曲の洗練度の高さは日本のバンドでも最高レベルではないでしょうか。

また、メンバーの染谷大陽さんのブログでブラジル音楽などのさまざまな音楽に出会えたというのもあり、Lampはリスペクトしまくっています。このブログには本当にお世話になっております…。林静一のジャケットもほんといいですよね。

 

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16. (((さらうんど))) - See You, Blue (2015)

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 この辺りの音楽がどういうジャンルに分類されるのかは詳しくないので分からないのですが、普段そんなに聴かないタイプの音なのに、ダンスミュージックとしてのクオリティがとてつもなく高いので、初めて聴いた瞬間から僕の中でのクラシックの座に収まりました。この前のアルバムも良かったのですが、トラックが格段にレベルアップしたように感じます。ラッパーのイルリメとしても活動している鴨田潤(Vo.)の歌詞の世界観も相まって、とにかく心がときめくダンスミュージックです。それにしても鴨田潤はすごくいい歌詞を書く人ですね。冨田ラボ『エイプリルフール feat.坂本真綾』の歌詞もこの人の手によるものなんですが、歌詞とメロディーの調和と、その内容は感動ものです。(『エイプリルフール』といえばこのドキュメントの動画も面白かったので良かったら。)

(((さらうんど)))というグループ自体が面白い存在ですしこれからのアルバムも期待できます。僕の心の師匠である(大マジです)大原大次郎さんによるデザインもいいんですよねえ。後生大事にしていきたい1枚です。

 

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17. SIMI LAB - Page 2: Mind Over Matter (2014)

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SIMI LABのメンバーはほとんどがハーフで、それでも日本語だけしか話せないメンバーが大半です。そんなメンバーたちがそれぞれの境遇を持ち寄ってひとつの音楽を作ろうという時に、自分の生活がそのまま音楽と結びつくという点で、ヒップホップという音楽は最適じゃないかと思うのです。音楽を通じて逆境が武器に変わるその様がたまらなくかっこいいと感じられるのは、それが僕らの希望になりうるからじゃないでしょうか。特にこのアルバムでは自分たちのルーツに言及しつつ進んで行こうとするような曲が多くて非常にアガること間違いなしです。今年出た、リーダー的存在のOMSBのソロアルバム『Think Good』も傑作でした。OMSBが部屋にこもってMPCを叩きながら1曲を作るというドキュメンタリー映画『THE COCKPIT』(2015)も良かったですよ。これ観てから僕もMPC叩き始めました。

 

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18. Donnie Trumpet & The Social Experience - Surf (2015)

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最近のアルバムが続いていますね。このフリーダウンロードのアルバムは今年の6月ごろに出たばかりですが、ダウンロードしてから頻繁に聴いています。

シカゴのヒップホップクルー、Save Money Crewのメンバーらによって結成されたThe Social Experienceのアルバムなのですが、多数のゲストを招いてバラエティー豊かでハイクオリティなアルバムになってます。また僕としては、中心メンバーの一人であるラッパーのChance The Rapperが93年生まれの22歳だったりと、自分と歳の近いアーティストがやっている音楽ということで興味をもっている部分もあります。でもとにかく好きな理由の一番は、この曲が聴けることです。最初のピアノ、Chance The Rapperがラップをし始めるところ、Jamila Woodsが歌い出すところ、最後のゴスペル的展開まで最高の瞬間の連続です。なんといってもMVが最高。そしてこの曲、Chanceが自分の大切な祖母のことを歌っている曲なんですが、そこも最高。

曲やMVの手のかかりようなど、本当にフリーで良いのか、というクオリティです。

 

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このアルバムについて詳しくはこれを(えげつないくらい丁寧な記事です!!興味があるなら必読!)、Save Money Crewについてはこれを読めば良いでしょう。アルバムをダウンロードするならここから。

 

 

 

19. Tyler,The Creator - Cherry Bomb (2015)

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Frank OceanやThe Internet、Earl Sweatshirt(タイラーの弟)などメンバーが次々有名になっている、今年解散したLAの超人気ヒップホップクルーOFWGKTA(Odd Future Wolf Gang Kill Them Allという長過ぎる正式名称です)のリーダー、タイラー・ザ・クリエイターによるソロ4枚目のアルバム(ちなみに1枚目はここからダウンロード可)。

タイラーのアルバムは2枚目の『GOBLIN』(2011)だけ聴いてないのですが、それを抜いてもこれまでのアルバムと較べて一番メロウで甘酸っぱい音になっていて、非常に好みでした。リバーブのかかったキーボードやギターの音がすごく心地いい曲が多めで、一方で破壊的な曲もあるのですが、それでも全体にこれまでよりも少し大人な内容というか、気持ちよく聴けるアルバムになっていると思います。歌詞も少し可愛い恋の曲(といっても逮捕を恐れて未成年の彼女のことが好きなのにヤれないという内容)があったりと、尖った部分以外が見えるのも良いですね。

参加アーティストにはKanye WestやLil WayneにPharrell Williamsなど豪華。The InternetのSyd The Kidも何曲かでコーラスで参加しています。

この曲はタイラーのへたくそな歌とメロウなトラック・コーラスがすごく良いですよ。MVもタイラーが可愛いのでおすすめ(MVの後半は「Deathcamp」という別の曲のMVになっていてそっちはマッドマックス風)。

 

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20. D'Angelo - Voodoo (2000)

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去年の終わりにかなり久しぶりに3rdアルバムを出したディアンジェロの2ndアルバム。

ディアンジェロを聴いたのは、星野源が何度もディアンジェロ好きを公言していて気になって聴いてみたのが最初なんですが、初めてこのジャケを見たときは「うわっ、コワっ、キツっ」てな感じで、なんとなく想像していた感じと全然違う、かなりマッチョなジャケットに結構引きました。この写真とブラックレターで書かれた「Voodoo」の文字がとにかく強い方向でマッチしてます(良くも悪くもダサいと思う)。

いざ聴いてみましょう。…ん…?なんかくぐもったような音…派手なメロディーや演奏でもないし…歌もざわざわごにょごにょしてて微妙…。初めて聴いた人、とくにソウルやファンクに馴染みがない人だとそんな感想を抱く人も少なくないと思います。僕も最初からハマったわけではありませんでした。

僕なりにこのアルバムの良さを理解しようとする人におすすめしたいのが、この曲を大きな音(重要!)で聴いて踊ったり、コーラスに自己流で参加してみることです。このアルバムに流れてる魔力に気づけるかもしれません。

いったいどんな魔法なのかを理解することも口で説明することも僕にはできるとは思えませんが、手数の少ないながらミチミチした音づくりの演奏の密室感と、分厚く重なったコーラスの禍々しさやゴスペルに通じるような神聖さは、ものすごくプリミティブな感覚に訴えかけてくるような、太古から現代まで見えない何かが通じてくるような、そんな揺さぶられ方です。この点で、前半で紹介したJames Blakeとディアンジェロの音楽は通じる何かがあると感じます。実際、James Blakeはディアンジェロの音楽が大好きだと公言しています。この演奏の感じは、ceroの3rdアルバム『Obscure Ride』や藤井洋平の音楽が好きな人は入っていきやすいんじゃないでしょうか。

アルバム全体を流れるドロっとした空気は保ちつつも、ファンキーな曲からヒップホップな曲、クラクラするほどメロウな曲もあり。繰り返しの中で気持ち良さが生まれてくるタイプの音楽だということもあって、聴くほど味出まくりの名盤だと思います。

そんなアルバムの中でも僕はロバータ・フラックのカバーをしたこの曲が好きですね。

 

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ちなみにディアンジェロの3rdアルバムの話ではありましたが、こないだの「菊地成孔の粋な夜電波」ではディアンジェロを中心としたブラックミュージック特集が行なわれていて、ディアンジェロの音楽がいかにすごいかというのを音楽家の観点から分析していてかなり面白い回になっていたのでおすすめです。(ニコ動のリンクです)

前編 #232 2015.11.06 ‐ ニコニコ動画:GINZA

後編 #233 2015.11.13 ‐ ニコニコ動画:GINZA

 

 

 

こんな感じで2015年が終わろうとしている中、自分の現時点のベストアルバムを選出してみたわけですが、書いている数ヶ月の間にもどんどん入れ替わってしまい、さらに文体もその日ごとのテンションで変わってしまい、どうにもこうにもならないままようやく(誰にも望まれることなく)書き上げることができました。2016年もできたらまたやろうかなと思います。この記事が100PVくらい行ってくれるといいのですが…。ちなみに最近はVulfpeckというバンドにドハマりしそうな予感です。ではさようなら。

 

最後に僕が普段からお世話になっている音楽ブログをあげておきます。

 

blog.livedoor.jp

トレンドの音楽から各種ネット上の音源までをあり得ないくらいの情報収集能力でレビューや紹介しまくっているブログ。知られざるフリーダウンロード音源に沢山出会えます。

非常に残念ながら先日更新を停止してしまったのですが、ブログ主の国分純平さんは本名で「ミュージック・マガジン」にフリーダウンロードの音源紹介の連載を開始されたそうです。ブログは残しておいてくれるそうなので掘り放題ですよ。

 

lampnoakari.jugem.cc

この記事内でも書いたAOR・シティポップスバンド、Lamp の染谷大陽さんが書いているブログ。染谷さんが選んだ聴いておくべきアルバム100枚や、ソウル、ブラジル音楽のおすすめなど、染谷さんが好きな音楽について細かく技術的な部分に触れて書いているので、ミュージシャンが書いている文章としての面白さがかなりあります。僕はここで知ったブラジル音楽をけっこう買ったりしています。

 

kaykbay.hatenablog.com

日本語ラップのサンプリングネタを探し続けるブログ。最近知ったブログですがかなり楽しいです。自分の好きな曲から元ネタの良い曲の方にたどり着けるのでそこが良いところ。大変な作業だと思うのですが頑張って続けてくれたら嬉しいですね。

 

 

こんなところです。

相対的に

外山恒一が少し前にネットに発表したテキストがめっぽう面白かったので衝撃を受けた。これは読んでない人にも一応薦めておくべきかもしれない、と思いこのブログに書こうと思い立ったのだった。(思い立ってから数週間この記事を下書きに放り込んでいた)以下はこのテキストの紹介と僕の取るに足らない感想であるので、この下に貼ったリンクに飛んでテキストを読みさえすればこのブログを読む必要はない。

 

野間易通 徹底批判

 

 

まず外山恒一、そして野間易通についての最低限の情報を書いておくと、外山恒一(とやまこういち)はファシストを自称する政治活動家である。2007年の都知事選の政見放送によってネット上では有名だが、ネタとしての知られ方の方が多いように感じる(僕もこのテキストを読むまでは政見放送のイメージだけで、ただ奇抜なことをするオカシな人だと思っていた)。最近の都知事選では当選してほしくない候補の選挙カーの後ろから街宣車で追っかけ、「原発推進頑張ってください、日本を滅ぼしましょう!」などと誉め殺しする活動などしているようだ。いずれにせよ異端な活動家である。

一方、野間易通(のまやすみち)はリベラルな活動家だ。よく知られているのは「レイシストをしばき隊」や反原発デモの代表としての活動だと思う。「しばき隊」は「在特会在日特権を許さない市民の会)」によるヘイトスピーチに対抗するために作られた団体である。こちらはこちらで過激な運動を展開している運動家である。

 

さて、このテキストはその名が表す通り、外山恒一が、野間易通を批判する、という趣旨の文章だ。けれどその構造と内容が面白いために両者をよく知らない僕のような者でも大変面白い読み物として読めてしまった。

このテキストは1章と2章に分かれていて、それぞれ違う観点から野間易通を批判するものとなっているのだが、この文章の面白いところは野間易通批判の文章が、1章では日本の社会運動史について、2章では欧米のカウンターカルチャーが日本でサブカルチャーとなりそしてサブカルへと変化した経緯についての、分かりやすい解説としても読めるところだ。

黄金期のサブカルチャーを後追いするしかなく、骨の抜けた「サブカル」に親しんできた平成生まれとしてはこの記事で初めて、あの当時のサブカルチャーになにか感じるものの正体が知れたような気持ちになった。また、1章もだいぶ興味深い話が読める。なかでも違う思想の人々がどのようにすれば同じ行動をとれるか、というくだりはとても興味深かった。当たり前の話なのかもしれないが。

この人の文章を読むにつけ、この人が自分の思想や活動を相対化してとらえていることがよくわかる。自分の思想を絶対とするわけではなく、社会の中で自分がどの位置にいるか、またはどういう見方をしているか、されているかを客観視することができている。だからこそ、極端なスタンスをとっている側の人の文章なのにすごく読みやすく面白いのだと思う。周りに流されるという意味での相対ではなく、周りとの位置関係を感じるという意味での相対ができているかどうかは重要だと思った。

でもとにかくまあ、読めばきっと面白いと思います。

 

私的音楽二十選 2015 【前半】

現在自分が何を好んでいるのかを書き記すことが何かにつながるかもしれないと思っているので、2015年現在の自分の中でのベストアルバムを20枚選んでみました。これはミュージシャンのbeipanaさんがやっていたのを真似しているわけですが。

自分が音楽を自覚的に好きになったのは多分中学3年の頃だったと思います。それまでなんとなく聴いていたJ-POPを聴かなくなって、THE BLUE HEARTSにハマった。「音楽を聴こう」と急に思い立ち、「ロック」ときいて思い浮かぶ名前をあてにしてThe BeatlesThe Rolling StonesEric Claptonなどのいわゆるクラシックロックから自発的に聴くようになりました。当時はストーンズのいったい何がかっこいいのかわからなかったけれど、かっこいいはずだと思い込んで聴いていました。今となってみればこのやせ我慢があって本当に良かった。この我慢ができなくなってしまったら、新しい分野に進むこともできなくなってしまうんじゃないかと思っています。少しのやせ我慢を伴いながら新しいジャンルに飛び込むのは、良さが分かって来た時が嬉しくて楽しくて、最近そうしてヒップホップとブラジル・ラテン音楽にハマりかけています。今まで知らなかったものだらけのジャンルは、目の前にまだ開けられていない宝箱がうず高く積まれているようで本当に楽しいです。

幸い父親が音楽好きで、高校時代にはLed Zeppelinのコピーバンドをやっていたり、細野晴臣を師と仰いでいたりしたような人だったので家に色々なCDがあり、今でもそこからたまに新しいものを探してきて聴いたりしています(父はラテン音楽は好きなようですがヒップホップは一切聴きません)。

ともかくまあそうして音楽を聴き始めたことは結果的に美術や映画の扉も開けてくれる事にもなったのだと思います。僕の場合には。

 

順不同で20枚あげるうちの、まずは最初の10枚。来年になっても変わっていなさそうな10枚を。

 

1.Sly & The Family Stone - There's A Riot Goin' On (1971)

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僕にとってブラックミュージックの魅力を知るきっかけでもあり、ファンクとの出会いでもあった1枚。中学3年のいつかの下校時に、iPodに入れたこのアルバムの1曲目を初めて聴いた瞬間、校門前で心が小躍りしたのを今でも憶えています。静かな熱が聴いている方をも熱くさせるこの感じ。今でもまだこのアルバムにはマジックを感じますし、そしてまたこの熟成された空気感の中にスライ・ストーンという人の青春のようなものも感じられます。だから、日本で再結成ライブをした時に細野晴臣がFamily Affairを聴いて泣いた、という話を読んだ時にその気持ちが分かる気がしました。細野さんにとってスライは最重要バンドのひとつでしょうし、青春でもあったんだろうなと思います。
少し暗いですが初めての人にも聴きやすいファンクのはずです。やるせない気持ちの時なんか、どうでしょうか。

 

 

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2.James Brown - Love Power Peace Live At The Olympia Paris 1971 (1992)

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ファンクの始祖といえばこの人ですが、僕がJBで最初に聴いたアルバムはまだJBがファンクを始める前のものでした。それはその時あまりよくわからなかったんですが、このライブ盤を聴いてがつんとやられました。こんな演奏されたらもう踊るしか無い、というくらいの熱量と技術。このパリライブは映像も残っているんですが、それはもう恐ろしいです。JBのキレキレのダンス。この頃のバンドメンバーには、後にP-Funkでも活躍するブーツィー・コリンズ(ベース)と兄のキャットフィッシュ・コリンズ(ギター)、フレッド・ウェズリー(トロンボーン)らがいて、ノリにノっているという佇まい。映像としても面白いです。ちなみにこのライブが行なわれた1971年と同年に上記のスライの『暴動(There's A Riot Goin' Onの邦題)』が発表されていますね。

そういえばこのライブ盤を高校の時に同じバンドでベースをやっていた友達に貸したら「よくわからなかった」といって返ってきた切ない思い出があります。

下の映像は音がかなり悪いですがCDではカットされている諸々(ブーツィーのベースソロなど)が聴けたりします。最初の2曲がおすすめです。

 

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3.The Band - The Band (1961)

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ジャケットが最高です。この人たちはどうやら南北戦争の頃の服装をしているそうで、シブすぎです。父親のCD棚の中からこのジャケットを見つけて、かっこいい…と思って聴いてみたらおじさんくさい音楽が流れてきました。聴いているうちに身体に馴染んでくるような音楽でした。

僕はリヴォン・ヘルム(ボーカル、ドラム、マンドリン)が顔をしかめて歌う姿がたまらなく好きで、ロックミュージシャンの中で一番かっこいいのは彼だと思っています。彼のドラムは素朴で心に響くからとても好きです。粘りのある声も。

吉祥寺の名画座バウスシアターが閉まる最後の日に、このザ・バンドの解散ライブの映画『Last Waltz』(マーティン・スコセッシ監督)を爆音上映で観たことが忘れられません。その映画の中から僕の1番好きな曲を。The Bandの代表曲であり、南北戦争のことを歌った曲でもあります。

 

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4.The Shins - Wincing The Night Away (2007)

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素晴らしきインディーミュージック。あちこち行き来するグッドメロディーとシャウト気味の高い声がどこかなつかしい場所へ連れて行ってくれます。アレンジはとにかくポップ、それでいて洒落っ気があって、60年代の音楽の影響も感じます。こういう音楽を作る音楽家の人をもっと見つけたいなと思います。「Phantom Limb」は良い曲ぞろいのこのアルバムの中でも1番の名曲です。

 

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5.James Blake - James Blake (2011)

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自分の心の内から聴こえてくるような音楽というものがあります。僕にとってはそれがこれでした。アナログな声の重なりが原初的で神秘的なイメージを呼び起こしてくれます。音楽というものが生まれてから今までにはるかな年月が経っているはずですが、このアルバムを聴いていると音楽が昔から持っているはずのプリミティブな力を強く感じ、この若い音楽家は時代を超えた音楽の芯をとらえているんじゃないかと思えてきます。

 

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6.Beck - Sea Change (2002)

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Beckの音楽は常に変わり続けていますが、いつも時代と付かず離れずなところにいるような感じがします。『Sea Change』はローファイなアルバムで世に出てきたBeckが思い切りハイファイな音を目指した作品ですが、ギミカルな曲を作るイメージだったBeckが直球の歌モノで勝負したらこんないいアルバムを作ってしまった、というのはリアルタイムで追っていたらきっと相当驚いたと思います。

音を大きめにして歌とギターとオーケストレーションの音の世界に浸かるように聴くと気持ちが良いアルバムです。

  

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7.細野晴臣 - 泰安洋行 (1976)

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エキゾチカは"ここではないどこかを夢見る"ことだと誰かが言っていたような気がします。このアルバムを聴いたときに思い浮かぶのは、ネオンが妖しく光る香港の裏路地や、カリブからハワイを通って沖縄へと吹く太平洋の風や、東南アジアの湿度たっぷりの市場(全部行った事ない)、あるいはそれらが混ざり合った風景。時代の流れを離れた音楽が鳴っているあいだは、僕らもどこかへ思いを馳せることができるのです。たぶん。

演奏の話をすれば、ドラム(林立夫)とピアノ(佐藤博)が素晴らしいです。佐藤博はピアノを20歳から死ぬほど練習してここまで弾けるようになったらしいですね、Wikipediaに書いてありました(情報が正しいかは分かりません)。僕も今からピアノちゃんと練習したらもう少し上手くなれるんでしょうか。今はとても下手なので。そういえば細野晴臣がこないだラジオで、そろそろライブでピアノ弾こうかな、と話していました。

 

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8.くるり - TEAM ROCK (2001)

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くるりで何か1枚選ぼうと思ったらこれになりました。Beckといい細野晴臣といい、色々な音楽性でアウトプットする人たちが好きな部分があります。くるりはメロディーとコードが好きなんだと思うのですが、考えてみるとどうして好きなのかは言葉にはなかなかできません。この中では「愛なき世界」「カレーの歌」「ばらの花」「迷路ゲーム」「リバー」あたりが特に好きです。「ばらの花」って形容しがたい良さがあります。そのせいか最初はそんなに好きじゃありませんでしたが、今では大好きな曲の一つです。

 

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9.星野源 - ばかのうた (2010)

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星野源にとっての『HOSONO HOUSE』。

星野源は意図的に歌の題材を日常や生活の中の歌になりにくそうなところから見つけ出してきます。それがあざとく感じる時もあり、逆にどうしようもなくぐっとくることもあり、結果的に大変好きなアルバムであることは確かです。

2nd、3rdにいくにつれて音楽性が広がっていって、今はもうこういうシンプルなアルバムはきっと出さないだろうなという内容ですが、そのシンプルな編成の楽曲がなかなか素敵です。このアルバムで高田漣とそのペダルスティールが好きになりました。

何曲かコピーしましたが少し難しいんですよねコードが。それゆえに星野源らしいコードって聴くとけっこうわかりやすかったりします。

アルバム中で唯一本人以外が作曲している「ただいま」(細野晴臣作曲)や、他にも「ばらばら」「夜中唄」「くせのうた」「兄妹」「穴を掘る」など良い曲が多いです。

 

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10.スチャダラパー - 5th Wheel 2 The Coach (1995)

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僕が初めて聴いたヒップホップのアルバムがこれ。高校生の一時期ずっと聴いてました。日本語ラップの面白さはここにたくさんつまっていると思います。ラップの面白さとトラックのかっこよさ。90年代のセンスが濃縮されている感じで、しかもこのアルバムが出た約1ヶ月前に生まれた者としては古い言葉が満載だったりして、そこも逆に楽しいところです。ヒップホップの入り口としてこれを選んだ自分、よくやった。

このアルバムの名曲といったらサマーソングのクラシックといっても差し支えない「サマージャム'95」って感じですが、「From 喜怒哀楽」も相当良い曲です。

 

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後半へつづく。

硝子のスクーター

 「自分の好きなものをおおっぴらに公言するところが男子校っぽい」大学で会った人にそう言われて「男子校じゃなくてもネット上にはそういう人ばっかりいるけど」とは答えずに「ああ、そうなのかもしれない」と答えたのは、僕が本当に中高を男子校で過ごしてきて同級生たちにもそんな様子が感じられたからだと思う。

 好きな物をおおっぴらに公言するのはいいが、「いかに自分がそれを好きか」に重点を置いてそれを語る人は鬱陶しい。というのはわかっているのに、わかっているのにやってしまうし。せめてどこが好きでどう良いのかをまっとうに言えるようになれば少しは世に出せるものになるんじゃないかと思ってブログを選んだわけだった。

 次いつ書くかはわからないけど(もしかしたらこの5時間30分後だってあり得る)次は好きな音楽か漫画かの話だろうと思っている。

 僕が最近描いた絵です。さようなら。

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